めんおうブログ

主夫ライターの日々と、よりよく生きるためのちょっとしたコツなど。

プロの仕事とは、こういうことだったんだ。「最高の一杯」を求めるお客様との真剣勝負。

スポンサーリンク

前書き

数日前から「麺場」を少しずつ経験させてもらっている。お店での営業は、お客様との真剣勝負であることを強く感じたので、これについて記録したい。

 

なお、麺場とは、厨房担当のことであり、お客様に給仕するホール、麺場とホールを補佐(皿洗いも含む)するサブと並ぶ、三つの営業機能(一人一つを担当)の一つである。麺場がラーメンを作る機能を負っているため、店舗は麺場を基準に動いている。

f:id:mennou:20180223005844j:plain

感じたこと

麺場は、前書きに書いたようにラーメン店の基準となる花形ポジションである。働き始めてすぐには経験させてもらえない、店の命とも言えるポジションである。お客様は、ラーメンを食べに来ているわけで、いくら給仕や清掃などが重要だと言っても「おいしいラーメンの提供」ほど大切なことはないのである。その麺場を少しずつ経験させてもらえることを、うれしく、誇りに思っている。

 

 

 

ラーメン作りは、注文を受けたら、まず麺をゆで麺器に入れ、ほぐす。お客様の好みの硬さに茹で上がるようにタイマーを使う店もあるが、わたしの働いている店では、ゆで麺器で沸騰させている湯の温度に、若干の差(ゆで麺器の中のどの麺受けを使うかで、温度が異なる)があるので、タイマーは使わず、茹でた麺の見た目と時間感覚で硬さを判断している。わたしのような初心者は、麺をつぶしたり、一本取ったりしてその硬さを直に確かめるようにしているが、麺を見ただけで分かるようになるものだそうだ。軟らかくなるほど、黄色味がかり、ぷっくりと膨らんで、芯がなくなってくる。

 

麺が茹で上がるまでに、具材の準備をする。チャーシュー、卵や野菜で足りないものがあれば、切ったり、茹でたりする。具材の準備が整ったら、茹で上がりの時にアツアツのスープで麺を受けられるようにどんぶりを作る。ウォーマー(どんぶりを温めておく食器入れ)からどんぶりを出し、メニューやお好みごとに決まった量のタレ、ネギ、鶏油(チーユ)を入れた後、アツアツのベーススープを入れる。ここまでの準備を、麺を茹でながら、麺上げのタイミングに合うように完了させなければならない。そして最後に湯切りした麺を器に入れ、麺をほぐし、そこに具材を盛り付けて完成である。

 

一杯ずつなら、要領さえ覚えれば、初心者でも作ることができる。難しいのは麺の硬さの微妙な調整だけであり、それを確かめながら、じっくり準備できる。しかし、ランチタイムや夜のピークは麺場の様子は、すっかり様変わりする。数時間もの間、20~30件の調理中の注文が並ぶこともある。それを、注文された順に、お好みに合わせた麺の硬さ、スープの濃さ、鶏油の量、麺の盛り(並、大、特大)でラーメンを用意しなければならない。しかも、メニューには基本のラーメンだけではなく、味噌ラーメンなど、茹でキャベツ、餃子、丼もの、小・大ライス、ビール、コーラなどがあり、これらを、お客様を待たせることなく調理・準備しなければならない。

 

常に次の次を考えながら、正確に最短時間で頭と体を動かし続ける必要があるのだ。麺場は、頭と体を動かしながら大きな声でホールやサブと連携する。ホールは、ハキハキとお客様を接客し、大きな声で注文を通す。サブは、ホールや麺場が処理しきれない業務を処理しつつ、配膳、皿洗いや食器乾燥を回し続ける。昼、夜のピーク時は、店内はまさに「戦場」と化す。

 

 

 

数日前、その夜の戦場の第一線を麺場で経験した。わたしよりも10歳以上も若い女性社員にサブについてもらい、わたしが麺場についたのである。彼女は、社員になりたてのころ、麺場経験一週間で昼のピークを経験したそうで、経験したことのない壁を乗り越える経験こそが自信につながる、という信念があるようだった。

 

 

 

一人目、二人目のお客様が来店したころは、手順通り、冷静に調理できており、「ラーメンお作りします!少々お待ちくださいね!!」などの声も出す余裕すらあった。

 

麺をゆで麺器に入れ、茹で上がるまでに、足りない具材がないかを確認する。煮卵が不足していたので、冷蔵庫から取り出してゆで麺器で温めようとしていると、三人目~五人目のお客様が同時に来店した。ホールがご案内しているところが、厨房から見える。

 

同じグループのお客様であれば、注文したラーメンを同時に提供できるよう、麺をゆで麺器に入れるタイミングを調整しなければならない。煮卵を温めていることをすっかり忘れて、後に来店した三人が同じグループかどうか、好みの麺の硬さ、麺は並か大か、を確認しつつ、その三人分の麺を正確なタイミング、量でゆで麺器に入れる。それから一杯目、二杯目の麺の硬さがちょうどいいことを確認し、どんぶりを作り始めると、六人目以降のお客様が来店した。かろうじて、いらっしゃいませ・・・とつぶやくレベルの声を出しつつ、一、二杯目目のどんぶりを作り、麺を入れてサブに盛り付けを任せる。それが終わると同時に、六人目以降のお客様の注文の確認と、三杯目~五杯のどんぶりを準備して・・・

 

 

 

わたしが麺場を担当したのは、夜のピークの終わりごろの一時間弱であったが、三杯目以降のラーメン作りは、ずっとバタバタしていてほとんど記憶に残っていない。冷や汗と脂汗をかきながら、厨房を動き回っていた、という感触だけが残っている。基本のラーメンと作り方の違う味噌ラーメンなどのラーメン、作るのに時間がかかり、焦げたら終わりの餃子、適宜準備しないと不足する具材、そして、調理しきれず積み上がるラーメンの注文・・・

 

自分で調理しているにもかかわらず、どのラーメンまで調理したか、そして、ゆで麺器(麺を入れる箇所が9か所ある)のどこに、どの注文の麺を入れたのかがわからなくなった。サブの女性社員に「ちょっと麺がわからなくなりました。大丈夫ですかね」と聞くと、彼女は「全然大丈夫ですよ。このままいきましょう」と言って、その時の状況を整理して、次に何をすればいいのか指示してくれた。わたしが力不足であることなどすべてお見通しで、100%把握してくれていたのである。10歳以上も若い女性社員にここまでお世話になるとは。。。

 

「次の次を考えながら」とは程遠く、指示されたように動く、ということが何度かあった。調理しきれない注文が積み上っていったとき、「まだおれは初心者なんだから、これで経験を積めばいい」という考えがよぎった。しかし、その考えがよぎった次の瞬間には、別の考えが噴き出してきた。

 

 

 

「お客様が食べるラーメンは、その一杯限り、そのお客様のこの来店は一回限りなんだぞ。何が経験を積むだ!?」と。

 

 

 

ラーメンを作ってお金をいただいている以上、そのラーメンは、お客様が食べたいと期待する以上のものでなければいけない。そのお客様の、その来店は一回限りであり、決してラーメンの作り手の練習のためにお金を払っているわけではない。経験を積めばいい、とは、甘え以外の何物でもないのである。

 

「ラーメン作るなら真剣勝負しとけよ!!」と、心の中で自分にムチ打って、積み上る注文を調理していった。

 

「めんおうさん、あとちょっとで麺場、交代しましょう!これをやり切ったら終わりです。ピークを乗り切れましたね!!」と、サブの女性社員が言うと、ホールのバイトも一緒になって喜んでくれた。わたしには、喜ぶ余裕はまったくなく、ただ、ぐちゃぐちゃになった頭と、クルクル回る目で二人を見ながら、口元だけは何とか引きつった笑みを作ることができていたのではないだろうか。

 

 

 

プロの仕事とは、なかなか理解しにくいものであるが、麺場を経験したことで、ようやくラーメン店員としてのそれを理解することができた。それは、「最高の一杯」を求めるお客様との真剣勝負に勝って、お客様を満足させることであったのだ。10年勤めた前職で気づけなかったことに、たった2カ月で気づくことができた。同時に、胸の内側から湧いてくる熱いものを感じた。それは、感動、エネルギー、パワー、やる気、楽しさ、充実感など、いろいろな表現の仕方があるかもしれないが、どんな言葉で表現しても表現しきれない、「胸の内側から湧いてくる熱いもの」であった。

 

心技体、これが一致して作り上げたものこそ、お客様の期待以上の「最高の一杯」となって、人を惹きつける。この「最高の一杯」の積み重ねこそが、今後のラーメンの行く末を担っているのではないだろうか。麺場だけでなく、どのポジションにおいても、「最高の一杯」を提供できるように動くこと。ラーメン店での仕事すべてが、お客様との真剣勝負であり、プロの仕事だと強く感じた。